「自分には無理だ」と挑戦する前から諦めてはいないだろうか。
目が見えないながらも司法試験に合格し、弁護士として活躍する大胡田誠さんも以前はそうだったという。
「失明した自分にできることはない。将来の可能性は完全に閉ざされている。そう悩んでいた時期がありました。でも、それは思い過ごしだったんです。」
大胡田先生は、笑顔で過去を振り返る。
弁護士になったキッカケ『一冊の本との出会い』
おおごだ法律事務所 大胡田 誠先生
静岡県伊豆市生まれ。慶應義塾大学法学部を経て、慶應義塾大学大学院法務研究科(法科大学院)へ進学。2006年に5回目の挑戦の末、司法試験に合格。全盲で司法試験に合格した国内では3人目の弁護士。現在は、港区に「おおごだ法律事務所」を構える。第一東京弁護士会所属。著書に『全盲の僕が弁護士になった理由~あきらめない心の鍛え方』など。趣味は音楽やマラソン、映画鑑賞。
私は、生まれつき先天性緑内障という目の病気を持っていたんです。小学校に入った頃には、すでに視力が0.1しかなく、6年生の秋には完全に失明しました。
今まで普通にしていたことが、いっぺんにできなくなった。「これからは人の助けを受けて生きるしかないのか」と、大きな壁にぶつかったような感覚に陥りました。
そんな失意のなかで出会ったのが、『ぶつかって、ぶつかって。』という一冊の本でした。私と同じように目が見えないのに、司法試験に合格した竹下義樹弁護士が書かれた伝記です。
「目が見えなくても難関といわれる司法試験に合格した人がいる」
可能性が閉ざされた気になっていたのは、自分の勘違いだったことに気がついたんです。努力次第では、まだ可能性が残されている。自ら道を拓いていくこともできるはずだと思いました。「弁護士になろう」と強く決めた瞬間です。
その後、多くの方々にサポートいただきながら猛勉強して、5回目の挑戦で司法試験に合格。現在は、こうして事務所まで構えることができました。
目の見えない私だからこそ、できることがある
——印象に残っている弁護や相談はありますか?
全てに深い思い入れがあるのですが、あえて挙げるなら弁護士になって3年目に担当した、とある男性の弁護ですね。
彼は足が不自由で職に就けず、ドラッグストアで万引きした薬を転売して生計を立てていたんです。しかし、そんな生活が続くわけもなく、彼は逮捕されて刑事裁判にかけられました。
そこで私が国選弁護人として、彼を弁護することになったんです。初めて会ったときの彼は、「俺は足が悪いし、これからも満足した職には就けない。どうなったっていい」と人生を諦めている様子でした。
※国選弁護人とは、逮捕や勾留された人が金銭的理由などで弁護士を呼べない場合に、国が費用を負担して選任する弁護士のこと。
私も懸命に弁護したのですが、残念ながら彼は実刑判決となり刑務所へ。でも、しばらくして刑務所にいる彼から手紙が届いたんです。
手紙には、「刑務所の作業で点字の翻訳をはじめました」とありました。
裁判のときは自暴自棄だった彼が、新しいことに挑戦している。これだけでも嬉しいことですが、さらにこう続いていたんです。
「もし自分が社会に戻ることができたら、今度は点字の知識を使って先生のお役に立ちたいと思います」
目が見えない弁護士が頑張って弁護する姿が、彼の前を向くキッカケになったのかもしれない。自分が失明したことに意味があったように感じられて、本当に嬉しかった。
目の見えない自分だからこそ、できることもある。それに気がつけたこともあり、今でも強く印象に残る弁護となりました。
——やりがいを感じる瞬間を教えてください。
人生に絶望していた方が、私への相談をきっかけに前向きになっていく瞬間にやりがいを感じます。
「目が見えなくても一生懸命頑張っている先生にお会いできて、自分も頑張ろうと元気が湧いてきましたよ」なんて言葉をいただくこともあります。目が見えない私が弁護士をしている意味を感じられて、本当に嬉しいですね。
休日は子どもたちと映画鑑賞。お気に入りは『名探偵コナン』
大胡田先生が普段から持ち歩いている点字電子手帳
——学生時代に打ち込んでいたことを教えてください。
陸上競技ですね。短距離の選手をしていました。ゴール付近で音を鳴らしてもらって、それに向かって走るんですよ。
大学生になってからは、ボランティアサークルに入り、親御さんと一緒に暮らせない子どもたちに勉強を教えたり一緒に遊んだりしていました。
——休日はどのように過ごされてますか?
マラソンをするか家でゴロゴロしています(笑)。マラソンは、目の見える方にガイドしてもらいながら一緒に走ります。
家にいるときは、本を朗読してくれるアプリを聴きながらゴロゴロすることが多いですね。AmazonのKindleは、テキスト読み上げ機能があるので重宝しています。途中で寝てしまうことも多いんですけどね(笑)。
あと私には、小さな子どもが2人いるので、点字が打ってあるトランプやオセロで一緒に遊んでいますね。『ポケモン』や『ドラえもん』といった映画を観に行くこともあります。
最近は、スマホで映画の音声ガイドを流してくれるサービスがあるので、目が見えなくても楽しめるんですよ。子どもたちと一緒に笑ったり泣けたりするのは嬉しいですね。
——お気に入りの映画はありますか?
『名探偵コナン』ですね。弁護士の立場から見ても、ちゃんと作り込まれていて面白いですよ。特に『名探偵コナン ゼロの執行人』が好きですね。司法修習生かな? 弁護士を目指していた役が登場するんです。かなり重要な役をやっていて興味深かったですね。
少し大人向けの映画だと、ロックバンド『クイーン』を描いた『ボヘミアン・ラプソディ』が面白かったです。最近の映画館は音響システムがすごいので、臨場感が味わえるんですよね。特にライブシーンは、鳥肌が立つくらい感動的でした。
世界中を敵に回しても相談者の味方でいたい
——今後、挑戦したいことはありますか?
私は、全盲の竹下弁護士が書いた伝記に出会って希望をもらいました。だから今度は、私が希望を人に渡す側になりたいですね。
そして事件の大小にかかわらず、依頼者を法律的にも精神的にも支えられるような弁護士を目指したいと思っています。
——最後に、弁護士に相談することにハードルを感じている方へメッセージをお願いします。
「こんなことで相談したら怒られるんじゃないかな」と思われている方もいると思います。でもそんなことはありません。世界中を敵に回したとしても、弁護士は相談してくださったあなたの味方です。
人は誰か一人でも自分を理解し、許してくれる仲間がいれば大丈夫なんだと思います。私は相談者にとって、そういう存在でありたい。
身近な相談相手として、私たち弁護士を選んでいただけたら嬉しいです。
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取材・文/菊地 誠 撮影/菊地 誠