西武新宿線野方駅から徒歩3分。にぎやかな商店街の横道を少し入ったところに「しいの木法律事務所」がある。
この地で法律事務所を開設して約15年、不利益な扱いを受けながらなかなか声を上げられない地域の人びとに寄り添いながら、弁護士として活動を続ける八坂玄功(やさかもとのり)先生。
決して口数は多くないが、慎重に言葉を選んで話す八坂先生の姿は、誠実そのもの。地域住民が信頼を寄せていることは容易に想像できる。
その原点はどこにあるのか? いろいろな角度から話を聞いた。
しいの木事務所 八坂玄功先生
東京大学教育学部中退。司法修習第52期終了後、2000年4月に弁護士登録。東京弁護士会所属。事務所の所在地である東京都中野区野方に根ざし、地域住民に寄り添う法律事務所をめざす。臨済宗の寺に生まれ、地域の人びとのために奔走していた父の背中を間近で見ていたことが、弁護士としての原点。目を細めながらふたりの娘の話をする優しい父でもある。
弁護士として、ひとりの区民として、住民運動に関わる
―― これまでどんな事件・裁判に関わってこられたのでしょうか?
弁護士登録をした2000年から中野区に住んでいることもあり、中野区の住民運動や市民運動に多く関わってきました。例えば、非常勤保育士の全員解雇・雇い止め事件では、一審・高裁で勝訴、労働委員会にも復職を認めさせました。
また、無断欠勤をしていた幹部職員の替わりに同僚幹部職員がタイムカードを打刻、給料を払っていたという事件では、住民監査請求後、住民訴訟で勝ちました。
中野区の住民運動には、私自身が当事者として関わることもあれば、住民から依頼を受けて弁護士として関わることもあります。裁判に至らなくても、行政指導において不利益な扱いを回避するために交渉したり、アドバイスをしたりするケースも少なくありません。
―― 特に印象に残っている事件や裁判はありますか?
弁護士になってすぐ、ハンセン病の国賠訴訟(国家賠償訴訟)で、そうそうたる弁護士の先生がたの末席に加えさせていただきました。
まだ経験も浅かったので、私自身が何かをできたというわけではありませんが、先輩弁護士の仕事ぶりを間近で見られたことは、その後の弁護士活動に大きな影響を与えていることは間違いないと思っています。
長く弁護士をしていますが、このような歴史的意義のある運動に参加できるチャンスはそうあるものではありません。そういう意味でも忘れられない訴訟です。
―― 八坂先生が弁護士になろうと思ったきっかけを教えていただけますか?
東大時代は自治会活動、いわゆる学生運動に熱中していたため、卒業ができなかったんですよ。しかし当時はまだ旧司法試験の時代で、大学の一般教養の単位さえ取っていれば、一次試験は免除されたんです。
また、周りに弁護士をめざす仲間もけっこういたので、司法試験を受けて弁護士になろうかと考えました。胸を張って話すような動機ではないですね(笑)。
学生時代は、政治家になろうとか、人権団体や市民団体で働きながら公益活動をやろうかなどと考えていましたが、人並みの能力でできるようなことではありませんからね。同じように人の役に立てて、生活も成り立つ仕事ということも弁護士の道を選んだ理由のひとつですね。
家族と観に行く映画で気持ちを切り替える
―― 気苦労の多い、大変なお仕事だと思うのですが、「辞めたい」と思われるようなことはありますか?
しょっちゅうですよ(笑)。うまくいかないことがあるたびに、「嫌だな」「もう辞めてやろう」と思います。
でも、それは他の弁護士の先生も同じなんじゃないかな。「辞めたい」と思ったことがない弁護士がいるとしたら、「負けるはずがない」事件しか引き受けていないか、精神的によほどタフか、どちらかでしょう。
―― 「辞めたい」と思われたとき、どのようにその気持ちを解消していらっしゃるのですか?
家に帰って、家族とおいしいものを食べたり、テレビのバラエティ番組を見たり、ゆっくり過ごすことでしょうか。
また映画が好きなので、休みの日には家族と観に出かけることもありますよ。最近は、従軍慰安婦問題に迫ったドキュメンタリー映画『主戦場』を観ました。大学1年と高校1年の娘と、『君の名は。』や『シン・ゴジラ』も観に行きましたよ。
―― お父さんと一緒に映画を観に行ってくれるような、優しくて素直なお嬢さんに育てる秘訣を教えてください(笑)。
本音はわかりませんが、今のところ、「お父さん嫌い」「あっち行って」などは言わないです。小さい頃から、過度なしつけのようなことはしてきませんでしたし、勉強しろとも言ってこなかったですね。
実は、私の実家は大分県の臨済宗のお寺なんです。父は長男の私に臨済宗のエリートとしての道を歩ませたいと考えていて、中学・高校時代はよその寺の小僧に出されていましたからね。そんな経験も私の子育てに影響しているのかもしれません。
弁護士としての原点は僧侶であった父の姿
―― 小僧さん! そんなご経験をお持ちだったんですね。
そのせいなのか、どちらかというと朝型で、朝6時頃から事務所で仕事をすることも多いです。夕方は急ぎの仕事がなければ、できるだけ早く帰るようにしています。
―― お寺の後を継がず弁護士になられた先生に対して、お父さまは何もおっしゃらなかったのですか?
父の気持ちは感じていましたけれど、「寺を継げ」とは決して言わなかったですね。
大学入学と同時にお寺の生活から脱走して、それ以来、自分の好きなことをやってきましたが、父は何も言いませんでした。もう亡くなってしまいましたから、今さら聞くこともできませんしね。
―― 八坂先生の弁護士としての原点には、お父さまの姿や仏教の教えなどがあるのでしょうか?
最近、「葬式仏教」などと批判されることもありますが、寺は悩みを抱えた人の話を聞いたり、相談にのったりする機能を果たしています。
父は、実家のすぐ近くにある大分少年院の教誨師(きょうかいし)や保護司として活動していて、よく坐禅指導をしたり、寺で子どもたちと一緒に食事をしたりなどしていました。
人に寄り添う、罪を犯した子どもたちの手助けをするといった父の姿に、私が影響を受けたのは確かだと思います。職業は違っても、「人に寄り添う」という意味では、僧侶も弁護士も同じなのかもしれません。
十分な結果を出せなかったとしても、依頼者から「がんばってくれてありがたかった」と感謝していただけると、とてもうれしいし、やりがいも感じます。
地域の人びとのために、自宅訪問や夜間・土日の法律相談も
―― 最後に、弁護士に相談することにハードルを感じているかたにアドバイスをお願いします。
自分たちが不利益を受けていても声を上げられない、こんなことを口にしても実りはないなどとあきらめないでいただきたいですね。
私に政治的な強い力があるわけではありませんが、それでも難しいといわれている行政の誤りを正すような事件に何件も関わって結果を出してきました。何かあったときは、ぜひ気軽に相談にいらしてください。
しいの木法律事務所
しいの木法律事務所は、地域の皆さんに支えられている法律事務所です。お困りのかたがいればご自宅に伺いますし、平日の昼間は時間が取れないというかたには、土日や夜間にも法律相談を承ります。経験豊富なふたりの弁護士が、問題の解決に向けて誠実にサポートします。
「間口は広く、敷居は低く」をモットーに、野方に根ざす法律事務所として地域の皆さまに寄り添う所存です。そして、正当な権利を正当に実現できるように、依頼者のかたとともにがんばってまいります。ぜひお気軽にご相談ください。
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取材・文/米谷美恵 撮影/米谷美恵